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藤の屋文具店

藤の屋文具店

自動車マニア実践講座 1~5

【自動車マニア実践講座】

              能書き


 男性にとって、クルマはとても魅力的なアイテムですね、それは、
どこへでも自由に移動できる自分の城、といった実利的な面だけで
なく、女性がセンスの良い服で自分を演出するように、クルマの魅
力を借りて自分を飾り立てることが可能な、そんな期待をほのかに
抱かせてくれるところにもあるようです。もちろん、どっぽんとし
たオヤジがフェラーリやポルシェを運転したところで、実は誰も尊
敬したり憧れたりはしないのですが、イワシの頭も信心からという
か、夢と希望をしょぼいおとこに与えてくれるアイテムとして、多
くのクルマがその売上を確保しているわけです。

 さて、昭和30年代のような貧しい時代ならいざ知らず、現代の
ような豊かな社会では、ただクルマを持っているというだけでは、
あまりえっへんできたりはしません。ちゅうぶるのおっきいベンツ
を持っていることだけを自慢する男がいたら、みなさん心の中では
罵詈雑言の博覧会を開催してしまいますね。
 ところが彼が、それをあざやかに運転してフェラーリを山道で抜
き去ったり、素晴らしいマナーで歩行者やまわりのクルマとスムー
ズに譲り合ったり、はたまた、ポールフレールさんや小林章太郎さ
んと高尚なクルマ談義をしていたりしたら、おお、なんと渋いじゃ
んかと尊敬することが、少しはあるかもしれません。衣食足りた現
代社会では、高価なクルマを持っているだけでは、他人に尊敬され
ることはかなわないというわけです。

 さて、高級なクルマで高尚な人達と上級な生活が送れれば、それ
は理想なのですが、そこまでは恵まれていないあなたにも、クルマ
のある生活をえっへんの道具にすることは、さほど難しくはありま
せん。そう、クルマにこだわりを持った「マニア」として名を馳せ、
良い気分に浸れる世界があるのです。深夜のファミレスやカーショ
ップの待合室でかっこいい専門用語を操り、インターネットで難し
い数式を駆使して自動車メーカーの専門家を批評する、徳大寺はダ
メだね、困ったもんだとフッとため息ついてジャーナリズムすら見
下ろすようなかっこいい人達、若葉マークのにーちゃんから見れば
神様のような「自動車マニア」になるのは、わずかな向上心とささ
やかな努力さえあれば、縦列駐車すらおぼつかない運痴や物理の偏
差値が40以下の人にだって、実は簡単なことなのです。

 ここでは、カーグラフィックのような、ビョーキの人達の読むか
っこいい雑誌の記事がちんぷんかんぷんな人にでも、終了後には大
衆クルマ雑誌、中綴じで包茎手術の宣伝なんかが載っているやつで
すが、その程度の雑誌のライターなんぞは鼻で笑えるところまで、
マニアとしての基礎を身につけられるように、うんちくを展開して
いこうと思います(ああ、なんとうそ臭い)。ただし、自動車工学
だのデザイン理論だのは、まったく身につきません。そのような本
当の専門教育は、それらしい本を読んだりした程度で理解すること
は不可能ですので、才能のある方は専門教育を受けてくださいませ。

 ではまず、基本的なクルマの言葉について、ひとつづつ説明をし
ていきましょう。言うまでもなく、趣味としての知識でありますか
ら、病的な細部へのこだわりは無視して、常識的な言葉遣いで大雑
把に進めていきます。大文字だ小文字だ、重量だ質量だといった区
別ばかりを熱心に語ることはしません。仕様末節にこだわるのは、
飲み屋のおねーさんがあくびを噛み殺してやっとお愛想する程度の、
誰にでもできるけれど、つまんないことだからです。


         【自動車マニア実践講座】

           アンダーステア


 自動車雑誌を読むと、ロードインプレッションという読み物があ
ります。首都圏の私大の文学部や経済学部あたりの学部を出た、自
動車部出身の評論家なんかが、メーカーからただで借りて来た新車
に乗って、平日の箱根で運転をして感じたことを綴った絵日記のよ
うなものです。そのような読み物の中に必ず、まるで中華料理の中
のシイタケか、はたまた田舎料理の砂糖のようにちりばめられてい
るのが、「アンダー」とか「アンダーステア」という言葉です。

 クルマは、ハンドルを切れば切った分だけ曲がるようにできてい
るわけですが、実は、前輪の曲がった角度とクルマの曲がる度合い
は、がっしりと対応されているわけではありません。なぜかという
と、タイヤは転がりながら滑っているわけで、仰向けにしたミニカ
ーの上に下敷きを乗せて引っ張ってみればわかりますが、タイヤと
地面の間には、鋼鉄のギアがかみ合うようながっしりした関係はな
くて、流れる水にも似たおおざっぱな関係が支配しているわけです。

 さて、現実のクルマでハンドルを切ってみましょう。そのままず
っと走っていると、クルマは同じところをぐるぐると回り始めます
ね。理屈の上ではそのままアクセルを踏んでいってもブレーキを踏
んでも、いつも同じ円の上を走るはずです。
 ところが実際には、速度を上げていくと、クルマはだんだん大き
な円を描いて走るようになります。これはどうしてかというと、前
輪が後輪よりも余計にスリップして、遠心力に負けて外側に広がっ
ていくからです。
 このようにして、ステアリングを切った度合いよりも低い度合い
で曲がっていくようになる性質のことを、「アンダーステア」と呼
ぶわけですが、ここで注意しなくてはいけないのは、これは、小回
りが効かないということや、ハンドルをたくさん切っても前輪の向
きが少ししか変わらないということとは別のことであるということ
です。
 評論家やマニアの人の中には、このことを混同してしまって、長
い車体やハンドルの鈍いクルマのことを「アンダーステア」である
と決め付ける場合がありますが、無知ゆえの間違いです。

 アンダーステアの反対はオーバーステアといいます。ハンドルを
切ったままどんどん速度を上げていくと、だんだん小さな円を回る
ようになる性質です。円が大きくも小さくもならないのは、ニュー
トラルステアといいます。
 現代のクルマは、普通の人が運転する実用車については、アンダ
ーステアになるようにセッティングがされています。このほうが安
全だからです。どうやってそのようにするかというと、前輪のほう
が横にスリップしやすいようにして行います。
 タイヤが横にスリップしやすくするには、バネを硬くします。そ
うすることによって、遠心力で傾いたボディが、そのタイヤを強い
力で外側に引っ張ってくれるからです。バネのまったくないクルマ
を造れば、重いものが載っているタイヤのほうが、外側にスリップ
します。また、駆動輪のほうが、アクセルを踏んでいるときにはス
リップしやすくなります。

 運転が上手だと思っている人は、アンダーステアという性質を嫌
う傾向がありますが、それは楽しくないからです。安全な性質とい
うものは、要するに誰が運転しても差が出ないわけで、せっかくい
ろんな技を身につけた人にとっては、それが発揮できないのが悔し
いわけですね。
 でも、ほんとに危険な領域に入るほどのセッティングになると、
そういう程度の人たちはびびって、腕よりクルマを酷評することに
なりますので、自動車メーカーが狙うのは、危なくない程度に運転
を楽しめる味付け、ということになりますが、たいした修練を積ん
でいない人の論評は、えてして、理想と自分の現実を混同しがちな
もので、マニアや評論家に好評なものだと商業的に失敗したりする
ことも珍しくありません。なかなか匙加減のむつかしい問題である
といえましょうか。


         【自動車マニア実践講座】

              圧縮比


 一昔前は、今のように大きな馬力のエンジンがたくさん売られて
はいませんでした。自動車屋さんに行って「速いクルマくださいな」
と言えば200キロだせるクルマがぽんと出てくるような時代では
なかったので、速く走りたい人達は、自分でエンジンを高性能に改
造するしかありませんでした。なんせ、フェアレディZですら13
0馬力、セリカやGTOでは115馬力だ110馬力だといった時
代だったので、マニアの中で「走り屋」と呼ばれていた人達は、レ
ースをやっているようなショップに持ちこんでは、馬力がもっとで
るように改造をしていたわけです。

 さて、その改造の内容ですが、当時の王道は、ツインキャブと圧
縮比のアップでした。ツインキャブというのは、エンジンに混合気
を供給する「キャブレター」をふたつに増設してガソリンをばんば
ん燃やすようにする改造で、圧縮比のアップは、ガスケットを薄く
したりピストンを上げ底にしたりして、混合気をよけいに圧縮する
改造です。

 エンジンの仕組みというのは、意外と理解していない方が多いの
ですが、自動車のそれは「内燃機関」と呼ばれる種類の機械で、こ
れは、燃料を燃やすと熱くなって体積が膨張するので、その力でピ
ストンを押し下げて、それをクランクシャフトで回転運動に換える、
というものです。クランクシャフトというのは、自転車の足を乗せ
て漕ぐところについている部品で、足を上下にうんうんっと動かす
と、ぎざぎざのギアが回りますね、あの仕組みです。エンジンは、
うんとおっきな注射器のピストンを、自転車のペダルにわっかでつ
ないだような、そんな感じで動いています。今回は、いちばん普通
の、レシプロガソリンエンジンについて考えて見ましょう。

 さて、普通のエンジンというのは、針の無い注射器を想像してみ
てください。注射器の針のところから、ガソリンと空気の混じった
ガスをちゅうっと吸いこんで栓をして火をつけると、燃えて熱くな
ります。 熱くなったガスは体積が大きくなりますから、そのまま
注射器のピストンを押し下げますね。この時、燃えたガスがもしも
20倍に膨らむとすると、ピストンは、20-1=19の力で押し
下げられます。
 ここで、ガスを吸いこんだあとで栓をして、一度半分の体積にな
るまでピストンを押しこんでやると、その時には2-1=1の力が
必要になりますが、火をつけて燃えたときには、縮める前の体積の
20倍になるわけですから、縮めた後とくらべれば40倍に膨らむ
ことになりますから、ピストンを押す力は、40-1=39となり
ます。最初に1の仕事を投資しておけば、19のはずであったの利
益が39に膨らむわけですから、ボロ儲けですね(^^)。

 もちろんこれは、燃焼工学の教科書ではないので、少しずつ広が
る体積とガスの圧力の変化に関する計算の考慮されていないインチ
キ計算ですから、本気で研究する方は、熱伝導や断熱膨張における
種々の微分方程式や導関数などを、専門の教授について学んでくだ
さい。わたしごときの無知な素人のあんちょこ数式を暗記して自慢
したら、失笑を買うのが関の山です。工学技術に関しては、プロ以
外の人の並べる数式は、ほとんど全ての場合、何の役にもたたない
ガラクタで、床屋の政治談義以上の価値はありませんです。

 それで、この、最初に押し縮めてやることを「圧縮」と言い、そ
の圧縮する度合いを、縮める前後の体積の比率で表して、「圧縮比」
と呼びます。圧縮比は、高ければ高いほど、馬力は大きくなる傾向
があります。難しくてかっこいい言葉で言うと、「燃焼効率が上が
る」と言い換えることができます。
 では、圧縮比をどんどん上げていけば、馬力もどんどん上がるで
はないか、そういうグッドアイデアが浮かんできますね。その通り
なのですが、そうは問屋がおろさない、今の問屋は金積めばばんば
ん卸売りしますが(^^)、圧縮比をどんどん上げていくと、火をつけ
た時にへんな振動が出て馬力が下がったり、ついには圧縮している
途中で火がついて逆回転したりします。ものごとには限度があると
いうことで、その限度を向上させるのが、技術の進歩というものな
のです。技術の進歩によって、昔は6.5くらいだった圧縮比はや
がて8から9になり、今では10や11といったものまであります。


         【自動車マニア実践講座】

            ノッキング


 圧縮比のところで少し触れましたが、同じエンジンから大きな馬
力を取り出すためには、圧縮比を大きくするという方法がありまし
たね。これをどんどん進めていくと、色々な問題が出てくるのです
が、その中でもポピュラーなのが、ノッキングという現象です。ち
びりそうなおかぁさんが、グズな息子の占領しているトイレのドア
をがんがんがんがんがんがんっと必死で叩くような、そんな切羽詰
った雰囲気がエンジンから伝わってくるような、あぶない状況なの
です。そのままほっておけば、エンジンは、いけないものをはみ出
してしまうかも知れません。

 エンジンの中でガスが燃える部分を、燃焼室といいます。注射器
をぐいぐい押し縮めて行くと、先っぽのほうに円筒形、デコレーシ
ョンケーキのような形の空間ができますが、そういうスペースです。
 このデコレーションケーキの中央に、ちょうどローソクのように
点火プラグがぷすっと深く刺さっています。ケーキのスポンジが燃
料のガスだとすると、めり込んだロースクのケツに火がついて、炎
は、ローソクのケツを中心に、円を描くというか球を描くように燃
え広がっていくわけです。
 さて、教室の黒板を拭くとき、黒板の中央に立って片手で拭いて
みると、左右の上の隅っこのほうは拭けませんね。これは、端っこ
の上の方までは距離が長いので、同じ長さの手では届かないという
ことです。エンジンの中でガスが燃えるときに、これと良く似た事
が起きます。つまり、ローソクのケツから燃え広がった炎がスポン
ジケーキの中のほとんどの部分に伝わった時に、ケーキの上面の縁
の部分にだけは、まだ伝わっていないわけです。
 
 これは、現実にはどういうことが起きるかというと、急速な燃焼、
専門用語で「爆発」と言いますが(^^)、爆発して急激に膨張する燃
焼ガスが、この隅っこの燃料ガスを、ものすごい勢いで圧縮してし
まうわけです。すると、すでに9分の1や10分の1に圧縮されて
いるガスがさらに圧縮されることになって、一番圧力の高くなるケ
ーキの上面の縁の部分が、自然に発火してしまうわけです。
 こうなると大変です。選挙カーが大声で叫んでいるところへ反対
から来た対立候補のそれが迎え撃つようなもので、とんでもない騒
音がぐわんぐわんと鳴り響くことになって、まともな仕事なんかで
きなくなっちゃいますね。こういう状態を、専門家は「燃焼が荒れ
る」と、職人チックな表現で表わします。ハイカラな専門用語では
ディトネーションといいます。

 さてここで問題です。このような状態を回避して、できるだけ圧
縮比を高くして、馬力をたくさん取り出すには、どうしたら良いで
しょう。

 方法はふたつあります。自然発火しにくい燃料を使うことと、自
然発火しにくい燃焼室にすることです。前者の方法が、「ハイオク
タンガソリン」を使うことです。これは簡単なので、昔のマニアが
エンジンを改造する時は、ガスケットを薄くしたりシリンダーヘッ
ドの下面を少し削ったりして燃焼室を小さくして圧縮比を上げて、
ハイオクタンガソリンを使用することでこれを回避していました。
 後者の方法は、スポンジケーキの上面の縁の部分を食べてしまう
こと、黒板の例でいうと、黒板を半円形の、初日の出みたいにして
しまうことです。つまり、点火プラグから燃焼室の壁までが、どこ
もかも同じ距離になるような形に設計しちゃうわけですね。こうい
うのを「半球型燃焼室」と言って、かっての高性能エンジンの説明
には欠かせない単語でした。

 現代のエンジンは、昭和53年の排気ガス規制の際の高度な基礎
研究のおかげで、正常な爆発をコントロールする技術が無数に生み
出されていて、薄い燃料ガスを綺麗に燃やしながらたくさんの馬力
を取り出すことが、昔よりも上手に出来るようになっています。こ
の技術の一番優れているのは日本のメーカーで、各社のあのころの
トライを思い起こして見ると、塞翁が馬というじじむさい諺が脳裏
をかすめたりします。無責任な人たちの脳天気な批判や干渉にめげ
ることなく、ひとつずつ地道な問題を解決してここまでに仕上げて
こられたすべての技術者の方々を、深く尊敬いたします。

         【自動車マニア実践講座】

             点火時期


 ガソリンエンジンの場合、エンジンが吸いこんだ燃料のガスは、
火をつけてやらないと燃えません。マッチやライターを燃焼室に近
づける訳にはいかないので、電気をスパークさせて点火します。こ
れが点火プラグという部品です。バッテリーに溜まっている電気は
12ボルトなので、このままだと、ぢぢっというだけで滅多に火が
つきませんから、これを数万ボルトの電圧に変換することが必要に
なります。その装置が、点火装置といわれるもので、電線をぐるぐ
る巻いたコイルと、コンタクトブレーカーという名前のスイッチ、
これは通常「ポイント」と呼ばれています、あとはディストリビュ
ーターという、溜まった電気をそれぞれのシリンダーの点火プラグ
に順番に配分する装置でできています。電気のスイッチを切るとば
ちっと光るほどの高い電圧が接点に発生するのを見たことがあると
思いますが、あれを利用した賢い装置です。今は、ポイントと呼ば
れるスイッチは、電子回路に進化してます。

 さて、ガスに火をつけるには、タイミングがあります。ぎゅぅっ
と圧縮する前に火がつくと回転にブレーキがかかりますし、圧縮が
終わって広がってから火がついたのでは、圧縮比が低いのと同じ状
態になって損をしますね。そこで、いつでもいいとこできちんと燃
えるように、点火する瞬間をコントロールする装置が必要になりま
す。どうやってするかというと、クランクシャフトやカムシャフト
のように、ピストンの運動と正確に連動している軸の回転によって、
ピストンの位置を割り出して点火スイッチを入れるわけです。

 ところで、立派な理屈を上手に並べる人ほど、世間では馬鹿にさ
れて無視されることが多いのですが、それは、現実の世界では、線
には幅があるし面には厚みがあるし、人には心があるというふうに、
素人向けのウンチク本に満載された、計算しやすく単純化された雛
型のようには、ものごとは動いていかないという事実があるわけで
すが、エンジンの中の世界にも、これは当てはまります。
 それは、火をつけてから燃えるまでには、ごくわずかだけれども
時間がかかるということです。点火プラグで発生した火種が、ほん
の数センチの燃焼室全部に行き渡るのにも、ゼロではない時間が必
要なわけですね。
 そこで、このわずかな時間を見越して、ピストンがいっちばん圧
縮しているところ、上死点というのですが、そこよりも少し手前で
点火することにしています。BTDC5度というふうに表記します
が、これは、びふぉあとっぷですせんたぁの省略で、上死点前とい
う意味です。この、ピストンに対する点火タイミングの位置を、点
火時期と呼びます。プロのかっこいい言葉で言うと、イニシャルタ
イミング、なんて言います。なんか、めかめかしてきましたねぇ(^^)。

 ところが、じつはここでひとつ、困った問題があります。それは、
炎が燃え広がるのに必要なのは時間であるということです。エンジ
ンが1000回転で回っている時と、6000回転で回っている時
とでは、燃え広がるのに必要なわずかな時間だけ手前にしようと思
っても、そのわずかな手前が、クランクシャフトの角度と時間の間
には6倍の変動があるわけです。
 そこで、低回転の時には少し手前で、高速回転の時にはかなり手
前、ようするに早い時期に、点火することにしてやる必要があるわ
けで、これをするのがガバナーという装置です。重りをぶんまわし
て、遠心力でバネを広げてスイッチの入る位置を調整したり、吸い
こみ口の低くなった気圧でスイッチ板を引っ張ったりするのが、そ
の原理です。大昔は、ドライバーがレバーで調整していました。

 1970年代の排気ガス規制が始まったころには、ガソリンを少
なくするだけでは減らせない廃棄物のためにこのガバナーに細工を
して、点火時期を遅く、ようするに圧縮比が低くなった時点で点火
するようにして、特定の排気成分を少なくするような改造装置が流
行しました。てきめんに馬力が落ちて燃費が悪くなったものですが、
点火時期というものの重要さを示すものではありました。この時の
経験は現在にも生かされていて、ハイオクタンが必要なエンジンに
レギュラーを入れた時、点火時期をこそっと遅らせて、実際の圧縮
比が低い状態の時に点火して、エンジンを保護するようになってい
ます。温故知新というやつですね。




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